女性の職場のイメージが強い介護職。それを覆すかのように活躍するのが社会福祉法人・松寿園(小松市)の松本巌(まつもと・いわお)さん(38)。仮装もオタ芸もお手の物。ノリノリの姿はまるで男子高校生!
25床からなるユニットリーダーとしてチームをまとめる松本さん。シンプルながらもさりげなくセンスの良さが伝わるいでたちで、ファッションにはかなりのこだわりの持ち主。トレーニングで体を絞り込み、こってりしたものを食べるのがストレス発散法と、まさに今どきの若者だ。
「忙しいけれど結束力を感じられるメンバーに恵まれて毎日楽しいです」と笑顔を見せる松本さんだが、もともとの志望は保育士だったという。転機は、友人に誘われた福祉施設の納涼祭で訪れた。ボランティアとして足が不自由な人を案内する係になったが、思いのほか車いすの操作がうまくできず落ち込むことがあったという。「参加するんじゃなかったと後悔していたら自分が車いすを押した人が、帰り際に『今日は楽しかったよ。ありがとうね』ってわざわざ言いにきてくれたんです。それは自分が聞いたことがなかった重みを持つ『ありがとう』だったんです」。この出会いが忘れられず、福祉の道に進んだ。
松本さんを語るうえで欠かせないのが月に2回、自らが取り仕切るレクリエーションだ。ひとつは誕生日会で、もうひとつはドライブか季節ごとのお祭りだといい、それは「常に全力で」行われる。例えば3月のお寿司パーティーでは、事前にお知らせポスターを作り掲示。当日は板前の衣装を着用して寿司を握った。ルーティーン化しがちなレクリエーションにどうして情熱をそそぐのか。「少し変わった演出があると、入所者さんたちのいつもと違う笑顔が見られるんです。最近では、どうしたら笑うのかツボがわかってきて、後輩と2人でオタ芸を振り切って披露した時は無茶苦茶受けていました。もっともっと笑ってほしい。笑顔の中毒ですね」。
そんな松本さんも一度だけ仕事を辞めようか悩んだときがあった。着任したばかりの頃、入居者のひとりが松本さんのお茶の入れ方が気に入らないと言い張り、どうしても飲んでくれなかったのだ。退職がよぎるほど追い詰められた、初めての大きな壁。松本さんは逃げることなく、相手の懐に飛び込むことで乗り越えた。「徹底的に好きなものや関心があるものをリサーチしました。プロ野球の巨人ファンでお笑いが好きだとわかったので、試合結果を会話の糸口にしてあえて積極的に話しかけまくりました」。さらに先輩からマンツーマンでお茶の入れ方を習って、自主練習。そんな苦労が実を結び、やがてお茶を飲んでくれるようになった。「心のどこかで、たかがお茶だと思っていたのでしょう。でも入所者さんにとって日々変わらないもの、習慣がいかに大切なのか気が付くことができました」とマイナスもプラスに変えられるハートの強さを持っている。
「今後は、ケアマネの資格をとって未経験の在宅の勉強をしたいです。長期的には、ユニット単位から園全体の運営に視野を広げて関わっていきたいと思っています。そのためには大勢の人と合意形成する必要性があるので、キャリアを積んで昇進もしていきたい」と、しっかりとキャリアプランを思い描いている。
持ち味のサービス精神を見抜き、無難なレクリエーションでなく、自分のやりたいようにやればいいと背中を押してくれたのは先輩たちだった。だから後輩にも自分の得意分野を広げていく喜びを知ってほしい。「介護の仕事って辛いばかりではないと思います。大変な仕事だねと言われることも多いけれど、楽しいよって即答しています」。
生き方も、働き方も自由です
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