介護士として、生きていく

深い愛情を持ち、「本当の声」に耳を傾ける。

作業療法士は、身体や精神に障害のある人が、自立して日常生活や社会生活を送れるよう支援する専門職だ。医療機関や介護施設で、個々の状態に合わせて訓練を計画し、食事や移動などさまざまな動作を一緒に練習しながら、「自分でできること」を維持したり向上したりすることを目指す。
社会福祉法人松寿園(小松市)で働く川端良明(かわばた・よしあき)さん(34)も、作業療法士として日々の仕事に向き合っている。川端さんが何よりも大切にしているのは、利用者の「本当の声」に耳を傾けることだ。訓練中はじっくりと会話を重ねながら、施設での暮らしの中で何を感じ、何を望んでいるのかを丁寧にくみ取っていく。

もちろん、「本当の声」を尊重する姿勢は、介護職員全員に共通するものだ。では、作業療法士ならではの役割とは何か。川端さんは「医療の視点を持って利用者さんに接することのできる点が、作業療法士の強みだと思います」と語る。
例えば、自分の思いを言葉にするのが難しい認知症の利用者と関わる場面では、作業療法士は医学的な知識を背景に、しぐさや表情の変化から意図を読み取るための手がかりを探る。こうして得られた情報を介護職員と共有し、日々のケアに生かすことで、より適切な支援につなげている。
もちろん、それは決して簡単なことではないので、川端さんは全国で開かれる研究会にも積極的に参加し、最新の知見を吸収する努力を続けている。

利用者との心の距離を縮める工夫も欠かさない。その一つが、ライフワークでもある「旅行」だ。学生時代から日本各地を巡り、47都道府県すべてを訪れた経験は、利用者に寄り添う際の大きな助けとなっている。「秋田県出身の利用者さんとお話ししたとき、景色や土地の空気感を共有できて、心の距離がぐっと縮まりました。旅は自分の楽しみでもありますし、これからも続けていきたいです」と微笑む。

川端さんの誠実な姿勢は、職場の業務改善に向けたデジタル化の取り組みでも際立った。利用者記録の電子化や見守り機器の導入時には中心的な役割を担い、職員の使い心地や不便といった声を丁寧にヒアリングして、システム会社に改善を依頼してきた。「実現が難しい」と言われた際にも「別の選択肢はないか」と粘り強く交渉し、導入を前に進めてきた。
その原動力には、介護職員への敬意がある。「職員は皆、利用者さんのために、見えないところで本当に努力しています。そんな姿を知っているからこそ、デジタル化によって、少しでも負担を減らしたかったんです」と語る。
人への深い愛情。それが川端さんを形づくる根源的な資質なのかもしれない。福祉の道を選んだ理由にも、その一端がにじむ。「作業療法士として病院で働く選択肢もありました。でも、病院には“退院”という区切りがあります。一方、福祉施設では利用者さんと長く関わり続けることができる。そこが大きな魅力でした」と話す。
利用者と長い時間を過ごす中では、ときに「重い問い」を投げかけられることもある。「『もう十分に生きた』『これ以上生きても意味がない』といった言葉を聞くことがあります。そんなとき、どう向き合えば良いか…」。
「長生きは良いことですよ」と一般論を伝えても、相手の心の奥には届かない。だからこそ川端さんは、自分にしか紡げない言葉を探し続けている。「福祉の世界で働いていれば、いつかその問いに答えられる日が来る気がするんです。利用者さんの心に本当に届く“返事”を見つけたい」。静かに語るまなざしには、福祉の専門職としての揺るぎない覚悟が宿っている。