介護士として、生きていく

私は知っている。生きがいが人を輝かせること。

社会福祉法人金沢西福祉会・やすはら苑の介護職員、中山哲男(なかやま・てつお)さん(49)は、「穂竜(ほりゅう)」という品種の金魚を育てることに情熱を注ぐ、「穂竜愛好家」の一面を持つ。
もともと生き物の飼育が好きで、中でも金魚には特別な思い入れがあった。「縁日の金魚すくいでは手に入らない珍しい種類に、子どもの頃から憧れていたんです」と笑う。大人になってからは、「リュウキン」「デメキン」「ピンポンパール」など、個性豊かな金魚を好んで育ててきた。
穂竜との出会いは今から20年ほど前。ペットショップの水槽を眺めていたとき、金銀をまとった体色と、丸みを帯びた体形、優雅に揺れる尾びれに心を奪われた。水槽のそばには、この金魚を卵から育てた「穂竜愛好会」を紹介する新聞記事が貼られていた。
「自分も穂竜を育ててみたい」と思い立った中山さんは、入会を希望して穂竜愛好会のホームページにアクセスし、メールを送った。しかし、同会の本拠地である兵庫県赤穂市と、中山さんの住む金沢市との距離の遠さを理由に、「フォローしきれない」と断られてしまう。
それでも穂竜育成への憧れは消えなかった。一戸建てを購入して飼育環境が整った2018年、再び入会を願い出た。熱意が伝わり、念願の入会を果たした。

飼育を始めて分かったのは、美しい形に育てるには繊細さと忍耐が欠かせないということだった。一度の産卵で生まれる稚魚は数千匹。その中から、優れた体形を持つ個体を選び抜き、最終的には十数匹にまで絞り込む。
穂竜の真骨頂は、ふっくらとした体にある。理想のフォルムに仕上げるには十分なエサが必要だが、太らせすぎるとうまく泳げなくなってしまう。そこで、ある時期からはエサを控え、水替えの頻度を上げて刺激を与えることでたくさん泳がせ、尾びれを発達させる。中山さんは自宅に並ぶいくつもの水槽で、金魚の様子をつぶさに観察しながら、「最高の一匹」を追い求めて試行錯誤を重ねている。

毎年10月には、全国の愛好家が赤穂市に集い、自慢の穂竜を披露する品評会が開かれる。審査では、形や色だけでなく、水中を泳ぐ姿の美しさも評価の対象となる。中山さんは2022年の品評会で、基本種「穂竜」部門と派生種「変わり竜」部門で優勝を果たした。
「うれしかったのは事実ですが、まだまだ先輩方との差は大きい。親魚の掛け合わせは無限で、育て方にも改善の余地がある。ゴールがないからこそ惹かれるんです」と目を輝かせる。

そんな中山さんは日頃、やすはら苑内にある高齢者向けの入所施設で、利用者の日常生活をサポートしている。
かつて建築業界に勤めていたが、リストラを機に、親の勧めで介護の世界へ飛び込んだ。思いがけない転職だったが、利用者一人ひとりと向き合ううちに、「自分にはこの仕事が合っている」と感じるようになったという。今では20年以上のキャリアを重ねている。

中山さんが重視するのは、利用者が生きがいを持って暮らせるよう、支援することだ。例えば、農作業が好きだったという利用者のためには、作物づくりの時間をつくる。家事が得意だった利用者には、洗濯物を畳んだり、食器を洗ったりといったことを積極的にお願いする。もちろん、本人の健康状態や安全面などを考慮すれば、叶えられることに限りはあるが、中山さんは「どう実現するか」に力を注ぐという。
背景には、自身が穂竜の飼育を通して生きがいを感じている経験がある。「利用者の皆さんにも、きっと夢中になっていたことや、大切にしてきた何かがあるはず。それを見つけて実現することも、私たちの大事な仕事だと信じています」と中山さんは語る。